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その1 光さんの涙

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この話は、私が、看護士に復帰したばかりの頃でした。
光さんのおかげで、私の看護方法は変わりましたね。

光さんは、90歳。
以前は東京郊外で、まだお嫁にいっていない二人の娘さんと一緒に暮らしていましたが、光さんが高齢になり介護が必要になりました。
そこで3人で都心のマンションに住まいを移されました。
当時は、二人の娘さんもお仕事をされていました。

光さんが介護を受けるようになった原因は、脳卒中。
身動き一つすることができなくなり、とうとう食べ物を飲込むことができなくなってしまいました。
お医者様からは「飲み込みができなくなったので胃ろうにしましょう。胃ろうは、生きるための手段です。延命ではありません」といわれて。
娘さんたちは、納得してお母さんに胃ろうの処置をされたそうです。

昼間、光さんは、寝たきりでひとりでしたが、そのうち長女が仕事を辞めて光さんをご自宅で介護されるようになりました。

ある日、長女は、訪問看護士の私に、尋ねてきました。
「ねー看護師さん、胃ろうは延命だと思いますか?」
「お医者様からは、延命ではないといわれたのですが、最近になって延命だったのではと思うようになったのです。」
「だって胃ろうの管を抜いてしまったらお母さんは死んでしまうんですから」

遺ろうをすすめてくれたお医者様に、この疑問をぶつけるわけにもいきません。
そこで、妹さんに話したそうです。
次女からは「だったら、どうするの?」といわれて、
らちがあかないということで、私が質問を受けたのです。

「では、胃ろうを止めたいということですか?」
「そうしたら命を奪うことになりますね。」と私。

「そこまでは考えていないのですが、お医者様の延命ではないという言葉に納得がいかなくなったのです。でも胃ろうはしてしまっているんです」と、長女。

長女の心の中にある何らかのもどかしさが垣間見えました。

「では、その気持ちをすっきりさせたいのですね」と、たずねました。

「その方法があれば……。」というので私は話し始めました。

胃ろうの処置をしてプラスだったことありませんか。
お母さんの命があってよかったと思ったこと考えてみませんか。

すると長女は、確かにお母さんの命があったことはよかったと認めていました。
「そうはいってもね。私たちが愚痴を言おうが、泣き言を言おうが、バカ話を言おうが、お母さんからは、何も返事はないのよ」とつぶやかれました。

私は「それもつらいわね。でも、お母さんがいなかったら言えないけど。ここに居てくれるから、つぶやけることってありますよね」と。

「確かにあります。それです。それです。」とうなづきながら長女は答えました。

「うんでもすんでもいいから、お母さんから何か反応があれば、救われるわけです」と、次女も話しました。

「延命だったとしても何か反応があったら救われるわけですね」と私。

「一言でもいいから何か聞きたいのよ」と次女も話してくれました。

じゃあ、私がもしお母さんだとしたら、なんて言うのかなと考えてみました。
お母さんが、家を処分して、2人の娘と一緒に住んで命を永らえさせてもらい、介護をしてもらってありがとう。と感じているのではないかと思いました。

「わかった。お母さんはね、多分あなたたちに一言だけ伝えたいことがあるとしたら、《ここまで、お世話してくれてありがとう》って言いたいんじゃないかな」と長女と次女にいいました。

そしたら、驚くようなことが起きたのです。

寝たきりで、身動き一つできない光さんが、
時々眼を開ける程度しかできない光さんが、目からボロボロボロボロと涙をこぼしたのです。

「耳が聞こえているということじゃないの」と、私と娘さん二人で、顔を見合わせました。
「光さん、ありがとうっていいたいの?」と私は聞き返しました
でも身動きひとつできないので、うんともすんとも返事は帰ってきません。
ただただ光さんの目からは、涙がこぼれていました。
もう本当に驚いて、娘さんとお母さんと三人で手を握って、「本当にそうなの?・・・お母さん」
この出来事は、私にとって初めての体験でした。

勤め始めの頃のこの体験をしてから、私は介護される方がお話ができなくても動けなくても必ず声かけをします。
最初はなかなかできなかったのですが、「おはようございます」から始まって、「今日動きはどうかな?」「今から検診しますね」「血圧計りますね」というように、だんだん自然に言葉が出るようになり、毎回一言一言患者さんに話かけるようになりました。

言葉が勝負だなと思うことがたくさんあります。
自分で勉強して、私が家族だったらどうするか考え話をさせてもることもあるし、在宅訪問医師の本がとても参考になることもあります。
介護ステーションに持ち帰って検討するケースもありますが、その場その場で、答えてあげたいこともたくさんありますから、とにかくいろいろな本を読んだり、体験者のお話を参考にさせてもらっています。
介護している最中はその仕事で精一杯ですが、ちょっとした時間のあるときにご家族とコミュニケーションがとれるように心がけています。

ご高齢になり、内臓の働きに限界がきてしまうと、外から栄養をとり入れても浮腫が出て排泄できない状態になります。お医者様によっては、代謝が悪いと点滴に利尿剤をプラスして、腎臓に負担をかけないようにして更に延命させるケースもあるようです。ですが、それが良いとばかりはいえません。

その後、ずっと命を永らえさせるのも、お母さんの身体の負担になるのではないかと娘さんは考え、担当のお医者様に相談したそうです。いよいよとなってきたときに、お医者様は、胃ろうの輸液を少しずつ減らして死を迎えられるようにされていったようです。

延命処置をされている場合は、まずお医者様とよく相談をされることをお勧めします。
お医者様の方針、そして、ご家族の気持ちとあわせて対処することが大切です。

この頃。私は、特別養護老人蘆花ホームの医師 石飛幸三先生の著書『「平穏死」のすすめ』を読み終えたところでした。

私たちの仕事もひとつの役割り。
訪問看護師は、その家族の人生の脇役なのです。
終末期の「最期を満足して迎えられるための脇役である」と自分に課せています。

 

*胃ろう
内視鏡を使って胃に空けた小さな穴を胃ろう(peg)といいます。嚥下障害などが原因で口から食事のとれない方や、食べてもむせ込んで嚥下性の肺炎などを起こしやすい方に、直接胃に栄養を入れる経管栄養法の方一つです。長期栄養管理法で、鼻からのチューブなどに比べ、患者さんの苦痛や介護者の負担が少なく、口から食べるリハビリや言語訓練が行いやすいメリットがあります。反対にデメリットは、口を使わないため口腔内が不潔になりやすく、逆流を起こしやすい、体力が低下していると合併症を起こしやすくなります。施設への入所を考えている場合は、胃とうは、難しくなることを覚えておきましょう。

お気軽にお問い合わせください。 TEL 03-5304-0840 受付時間10:00~18:00(火曜、木曜、金曜)

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