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その2 いとおしい介護

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区内最高年齢で長寿を全うした望さんの最期は、自然死そのもの。
人生をまっとうした尊厳ある死でした。

望さんは109歳。
3人の息子さん、3人の娘さんに恵まれました。娘さんたちは嫁がれ、長男、次男を先に見送られて、次男のお嫁さんと同居。お嫁さんがずっと望さんのお世話をしていました。
嫁いだ娘さんの1人は80代を超え、家族は誰もいなくなり、望さんのそばにいたいと実家に戻ってきましたが、高齢で介護はできません。

私が訪問し始めたとき、望さんは103歳でした。
面倒をみていたお嫁さんは、当時76歳で、足や腰が痛い状況でした。

望さんの介護は24時間対応。
夜専門の家政婦さん、昼間は介護保険でヘルパーさんに、ほとんど介護をお願いして、その合間をお嫁さんがみて居る状況でした。

まさしく老老介護。
ですが、このお嫁さんのお姑さんに対する姿勢は、他の家とは違っていました。

まず、お嫁さんのお姑さんに対する声が違うんです。
普通は眠っているお母さんを起こすとき
「お母さん起きてよ。看護師さんきたわよ」というように話すのですが、
このお嫁さんは「お母さん、お母さん」と呼ぶ声のトーンが柔らかく愛情を感じるやさしさがいっぱいです。
「眠いの?眠いんだねー」と、ふわっとした言い方は周りにいる人も癒されるほどで、とてもいとおしい気持ちが伝わってきます。

訪問し始めて2年ほどは、望さんは、丸一日寝て一日半くらいたって起きる生活パーターンで、伺う時はほとんど寝ていました。私たちは、その間に排泄状態をみて、便が詰まっているなら排泄をさせて、全身のチェックや介護相談を受けていました。

いつもお嫁さんの態度からは、とてもお姑さんを尊敬していらっしゃることを感じ取れましたね。
たまたま望さんの起きている時が一度だけありました。
ご挨拶をしようと思い、「お休み中のところ断りもなく望さんの体の具合をみさせていただいています」と声をおかけしました。
すると、望さんは「どこの、どなたか存知ませんが、私が知らない間にいろいろなことをしてくださってありがとうございます。他の方々にもよろしく伝えてください。大変お世話になりました。」と、きちっとした挨拶をして下さいました。
これには、とても感動しました。

普段は眠っていますから、お嫁さんもほとんどお話はしていないようです。
お嫁さんは、望さんが起きると、食べることを中心に大好物のエビフライなどを細かくして食べさせるお世話をしていたようです。
私が上半身のケアをしている時に、望さんが排便をしてしまいました。
このときのお嫁さん、実にすごかったのです。
望さんの便を、お嫁さんは、「あれあれ」といいながら素手で受けていました。
便を汚いと思わないのですね。
お嫁さんとお姑さん、その絆はすごいものです。
お嫁さんからお話をうかがうと、望さんのことで嫌な思いをしたことがないとおっしゃっていました。
お嫁さんの優しさは見せかけではないんです。

望さんは、やがて誤嚥を起こし、気管支炎になり、だいぶ回復したものの、ただんだん飲み込みもうまくできなくなり、とうとう食べられなくなっていきました。
お医者様からは、「延命をどうするか」という話が出てしまい、「今後嚥下をどうしますか?」「入院させますか?」と聞かれました。
家族は「まだまだやってあげたい。口から食べられるだけ食べてもらって、それが無理になったらあきらめます。」と決断しました。
ですが、続けていても、望さんは、どうしても飲み込みが悪いので、ひどくむせてしまいます。
お医者様からは、「これほどむせると苦しいと思います。口から誤嚥しても食べさせれば、窒息して亡くなるでしょう。点滴に切りかえるように決断する時ではないでしょうか」といわれました。

家族からは、介護が苦痛という言葉は一度も聞いたことがありませんでした。

「お母さんにはもっともっと生きていてもらいたいから、できる限り点滴をしてください」これが家族の答えでした。
高齢になると、身体は日に日に自然に枯れ木のようになっていくのに、顔の肌はツヤツヤしていました。普通は乾燥肌になるのでカサカサのはずですが、髪もきれいだし、顔もお嫁さんが手入れしていることが一目瞭然でした。血流をよくするためにマッサージ師さんにも通ってもらっていました。

いよいよ最期の時期をむかえると、点滴をしても、身体に大量に吸収できないせいか、痰がすごくでてきます。

お医者様によってその見解は様々です。
「痰が出ているけれど、苦しくないんだよ」とお医者様はいいますが、痰がたまってくると苦しそうに見えるし、家族は、とってあげたいと思うのが自然です。
ですが、痰は吸引機がないと取れません。看護師が対応しますが、とってもとっても痰がすぐにたまるので、吸引の仕方を家族に教えます。

点滴を二週間くらい続けたでしょうか、今度は、点滴をいつまで続けるかという問題に直面します。
薬でも、治療でも同じです。やめ時をいつにするかです。
状況、御家族の思いを総合的にみて医師と家族で判断しなければなりません。
このとき、お医者様からは、「食べさせても誤嚥、点滴でも痰がどんどんでてきて苦しい、どちらにしてもつらいですよ。今までのように、2日寝て1日起きて、食事をしてと言う穏やかな生活にはなりませんよ。そろそろ楽にしてあげたいと思いませんか」とお話があったそうです。
家族会議で、他の兄弟から、「点滴以外生きる方法がないのに、点滴をはずして見殺しにするのか?」という意見がでたそうです。
お嫁さんは、看護士の私に「どう思いますか?」とたずねてきました。

いろいろな意見があると思いますが、もし望さんが自分の親だったらどうするか、個人的な意見を参考までにお話しすることにし、たとえとして聞いていただくことにしました。

「痰をとるまでは、静かな日々でしたね。それが自然な老化だと思います。
その後、点滴をして痰の吸引をしましたね。それは苦しいですね。
多くの方を診ていると、体が吸収しきれないほど過剰な水分が入った時に、そのような傾向になることが多いと思います。食べられなくなって、飲めなくなって、自然に逝ったかたでは、こんなに痰が出るのをあまり見たことがありません。
私の親なら覚悟をして楽にしてあげよう。それがおかあさんのためだと、判断して、家族に気持ちを変えてもらえるように努力するのではないかと思います。」と、おこたえしました。
また、「もし自分が望さんのような立場になったら、自然にしてもらうように頼むでしょうね。」ともいいました。
それから在宅療養のことを書いた医師の書籍を読んでも、そう書いてあったとも伝えました。

お嫁さんがこういう考え方を、血のつながる、離れて住んでいる家族に伝えたら、「仕方ないね。好きにどうぞ」といわれたそうです。
お医者様にそのことを伝えたところ、先生が点滴をはずしたそうです。
それから2週間後に望さんは、老衰で自然死をむかえられました。

在宅介護では、ご家族が旅立たれた後に、悲しみのケアに、ご家族からご希望があると伺うんですが、その時に、望さんの最期をたずねました。

すると、2週間食べたり飲んだりしていないのに、便と尿を出しきって、すーっと息を引き取ったということでした。動物本来の自然の亡くなりかたでした。
望さんは、長寿であったため、長寿研究に登録し協力されていたようで、日本の大学関係者と介護現場を見学しにスウェーデンでの長寿研究者が訪れ、両国の在宅看護の違い、長寿の在宅看護の家族関係などを調査に来られましたことがありました。スウェーデンの関係者は、ナースの介護がとても細やかであるといっていました。望さんが亡くなられた夜中、大学病院の長寿遺伝子の研究者が、望さんのお腹の細胞を採取して帰られたそうです。
長寿の謎を解くことにも一役かわれるのです。

ご家族からは悲しいというよりは、お母さんに愛おしい気持ちを抱き、できることはさせてもらった、やりきった喜びのようなものが伝わりました。

お嫁さん、本当にありがとう。
望さんの声が聞こえてくるようです。

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